リスクコンシェルジュ~税務リスク 企業の税務リスク

  企業の税務リスク 

法人も納税の義務を負う以上,企業が,法人税や源泉所得税等の税金を納めるべきなのは,当然です。しかし,実際には,「見解の相違」という問題が頻繁に起きています。国税当局(所轄税務署長等)は「課税すべき」と考え,納税者である企業は「課税されるべき事案ではない」と考える場合です。新聞等でもよく報道されているところです。

 見解の相違が生じるのは,なぜ?

 「見解の相違」が生じるのは,なぜでしょうか? 国税当局は,税務調査においては,できるかぎり,課税漏れを発見し,多額の税収を獲得したいと考えています。もちろん,明らかな課税漏れがあれば,速やかに修正申告すべきです。しかし,そうではない場合もあります。いわゆる「見解の相違」の場合です。

 見解の相違は「法の解釈」をめぐり起きます。企業が納めるべき税金について定めた法人税法,所得税法(源泉徴収義務の場合),租税特別措置法などの「法律」は,①そのままストレートに適用できる場合と,②「法の解釈」を経て初めて適用できる場合があります。

 退職所得か? 給与所得か?

たとえば,従業員が役員になる際に法人が支給した一時金があったとします。これが「退職所得」に該当すれば,特別な控除と2分の1課税があるため,「給与所得」に比べ,税金は相当程度低くなります。こうしたケースで,課税庁は「それは,退職所得ではなく,給与所得だ」として,源泉漏れを指摘することがあります。

これに対して,法人は「それは,退職所得だ」と考えたとします。それでも,課税庁は,企業が「給与所得」としての源泉徴収義務を果たしていなかったとして,納税告知処分および不納付加算税の賦課決定処分を行ってきます(追徴課税)。

 納得が行かない場合には「争う途」がある?

追徴課税に納得が行かない場合,企業は争うことができます。いきなり訴訟を提起することはできませんが,まず,「不服申立て」(処分を行った税務署長等に取消しを求める「異議申立て」,国税不服審判所に取消しを求める「審査請求」があります。)を行い,それでも請求が認められなかった場合には,裁判所に「税務訴訟」を提起することができます(実際にも,上記のような事案で上場企業が裁判を起こし勝訴した事案がありました(大阪高裁平成20年9月10日判決)。

 国税が敗訴するケースが増えている?

 最新のデータによれば,平成23年度(平成23年4月1日から平成24年3月31日まで)の国税の敗訴率(納税者の勝訴率)は13.4%です。裁判で争うことで,企業の主張が認容されるケースが増えています。

 未然に防止するためには?

 といっても,税務訴訟は「事後的な救済」です。もちろん,最終的には「司法の場」で救済が得られる可能性があります。しかし,税務調査の時点で,処分をされなければ「司法の場」で決着をつける必要もなくなります。こうした「税務リスク」を防ぐためには,税務調査の際に,国税当局が処分を打つこと(否認をする)ができないように,事前の対策をとっておくことが重要です。事実に関する「証拠」を残します。「法の解釈」でもつけいられることがないよう,取引などを行うまえに,専門家からアドバイスをもらいます。

未然に「税務リスク」を防止できれば,追徴課税による経済的損失,報道によるレピュテーションリスク,訴訟追行のための弁護士費用等の負担などを,排除できます。

 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 木山泰嗣

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